悪の適性値

Uncategorized

健康診断で異常が見つかった。
と言っても肝臓がどうとか血糖値がどうとか、そういう分かりやすく人生を脅かしてくるやつじゃない。

悪玉コレステロールが低すぎるらしい。

紙に書かれた結果を二度見した。

「LDLコレステロール 低値」

悪玉なんだから、少ないことを褒められると思っていた。
悪だぞ。
それが少なくて、なぜ指摘されなきゃならない。

健康診断のコメント欄には「栄養バランスに注意しましょう」とだけ書いてあった。
バランス。
書く言側からすると便利な言葉である。

じゃあ何だ、改善するには脂っこいものを爆食いすればいいのか。
ラーメンの背脂をスープとして飲み、トンカツを主食にして、バターをそのまま齧ればいいのか。
それで悪玉が増えて「うん、ちょうどいい悪ですね」と判定される日が来るのか。

考えているうちにこれは体の話だけじゃない気がしてきた。
世の中もたぶん同じ構造でできている。

良い人ばかりでは世界は成り立たない。
悪い人がいて、初めて良い人が輝く。
悪役がいなければヒーローも生まれないらしい。

全員が時間を守り、全員が空気を読み、全員が誠実だったら、「普通」の基準はどんどん上がる。
少し遅刻しただけで問題児になり、言葉を選び損ねただけで人でなし扱いされる。

そう考えると、世の中のどうしようもない人たちは案外重要な役割を担っているのかもしれない。
あの人たちがいるおかげで俺は「まだマシ」に分類されている。

煽り運転をする人。
路上喫煙をする人。
店員に怒鳴る人。

でも、ふと不安になる。
もしかして俺は、「基準を下げている側」なんじゃないか。

誰かの人生の健康診断で、「異常なし」と言わせるための悪玉。
「まあ、あの人もいるし」と思わせるための存在。

悪が少なすぎると指摘され、悪が多すぎると嫌われる。
世の中は、悪に対しても適正値を求めてくる。

その基準値のどこに自分がいるのか、正直よく分からない。

ただ一つ言えるのは、俺は今日も元気で、悪玉コレステロールが足りない。

悪にも基準値があるというなら、自分はまだ結果待ちなのかもしれない。

コメント

タイトルとURLをコピーしました