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ケチャップの記憶

夕暮れ時。さほど腹が減っていたわけでもないのに、気づけばハンバーガーチェーンの店内にいた。セットがお得だったので反射的に注文していた。ポテト、コーラ、そして紙包みにくるまれたハンバーガー。包みをめくる瞬間、ほんの少しのときめきがある。何の変...
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判子が押されてから

書類を一通、提出しなければならなかった。メールでのやり取りなので、ちょっと書いて送れば終わるはずだった。ところがその書類には、上司の判子が必要だった。電子印ではない。朱肉を使う、物理的に存在するあの円形のやつだ。早めに声をかけた。お願いもし...
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穴が空いた日常

パンツに穴が空いた。位置は左横で、さほど目立たないし、機能もほとんど損なわれていない。会社でズボン脱ぐ予定もない。仮にズボンが爆発してパンツがあらわになったとしても、誰も気にしないレベルだ。むしろ、そのとき気にすべきことはズボンが爆発したと...
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魯山人とファミチキ

北大路魯山人は、おそらくファミチキを食べない。この思いつきは、俺がファミマのイートインで油にまみれた肉を見つめていた時に生まれたものだ。「おそらく」という言葉が妙に引っかかる。本当に「おそらく」なのか?それとも「絶対に」なのか?魯山人が現代...
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Googleミート

Googleカレンダーに会議の予定が並ぶ。今日もまた、上司の顔がタイル状に並び、誰かが誰かの声にかぶせて発言し、沈黙を切り裂くように「マイク入ってませんよ」と言われる、そんな時間が始まる。「Google Meet」。その文字を見るたびに、俺...
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ネギの本懐

食べ終わったラーメン鉢の中でネギたちが俺を見上げていた。汁の上でネギが浮いている。「食べてよ」と言っているようでも、「もういいよ」と突き放しているようでもある。どちらにせよ、目が合ってしまった以上、見なかったフリはできない。俺はネギが好きだ...
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ターコイズの月に生まれて

子どもの頃、ふとしたきっかけで誕生石を知った。何かの本だったか、学校の掲示物だったか。記憶は曖昧だが確かに俺の月の石は「ターコイズ」だった。トルコ石とも呼ばれるその石は青緑でくすんだ色合い。光は跳ね返さず、沈んでいた。隣の月を見ればルビーや...
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脱毛に至るまで

「剃った毛は太くならない。ただ太く見えるだけ」よく聞く話だ。……なんだその理屈は、と思う。太く見えるのなら、それはもう“太い”のではないか?と。言葉遊びの域を出ていない気もするが、科学的にはそういうことらしい。毛根の断面が広く見えるため、伸...
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味覇の支配

俺は一つの教義に従っていた。それは「味覇さえあればすべての料理は救われる」という至言のような信念だ。ぼくはこの赤い缶だけを信じていた。味覇。うぇいぱー。俺にとって神々の贈り物であり、孤独な夜に輝きをもたらす灯火のような存在だった。
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適当な髪と適当な言い訳

朝起きると、まず髪型がめちゃくちゃになっている。これはもう、毎日のことだ。夢の中でどんなに紳士的な振る舞いをしていても、朝の俺の頭は、戦場帰りのような有様である。ひどい時には、鏡の中の自分と目が合った瞬間に「誰?」と素で思うことすらある。と...