Googleミート

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Googleカレンダーに会議の予定が並ぶ。
今日もまた、上司の顔がタイル状に並び、誰かが誰かの声にかぶせて発言し、沈黙を切り裂くように「マイク入ってませんよ」と言われる、そんな時間が始まる。

「Google Meet」。その文字を見るたびに、俺は学生時代を思い出す。
あれはコロナ禍の真っ只中。人間関係の太さが、回線の太さに左右されていた頃だ。
研究室の発表練習や論文紹介も、例に漏れずGoogle Meetで行っていた。
ある日、後輩が送ってきた招待メールに、こう書かれていた。

「13:00〜 Google Meat にて卒論発表練習をします」

Meat。肉である。Googleお肉。

読んだ瞬間、俺の脳内では、研究室のメンバーが焼肉の網を囲み、肉をひっくり返しながら卒論を発表している光景が再生された。
発表者はカルビを網に投下し、焼き加減に応じて質疑応答が白熱する。質問の大半が「裏返していい?」と「もう食える?」で占められる。

そのメール、間違って送ったのは一度きりじゃなかった。
毎回律儀に「Google Meat」と打ち、そして一切修正されない。
いつもお肉だった。

冷静に考えれば、“Meet”と“Meat”の違いは、たった一文字。
でもこの一文字に含まれる情報量の差はあまりにも大きい。
“e”と“a”の違いだけで、会議がいきなりタンパク質になる。
言葉とは、なんとも恐ろしい。

そして今、俺はまたGoogle Meetを使っている。
名前を聞くたび、「ああ、肉じゃないんだ」とどこかでがっかりしている自分がいる。
何年経っても、俺の中でGoogleのビデオ会議ツールは、どこかジューシーな響きをまとったままだ。

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